羽越本線には、完成目前まで建設が進みながら、一度も列車が走ることなく役目を終えた「幻の新線」があることをご存じでしょうか。
今回は、新潟へ遊びに来てくれた模型仲間と一緒に、その未成線・廃線跡を巡ってきました。
実際に現地を歩いてみると、巨大なトンネルや築堤など、今でも当時の姿を色濃く残す構造物が数多く残っています。鉄道ファンはもちろん、土木好きにもぜひ訪れてほしいスポットでした。
出発前からまさかのハプニング
当日は朝から思わぬ出来事がありました。
家庭菜園を見に行くと、防鳥ネットに一羽の野鳥が絡まって身動きが取れなくなっていました。

そのままにはできず、慎重にネットを切り離して無事に救出。
少し出発は遅れましたが、「まずは助かってよかった」と一安心してから出発です。
旅はいきなり予定どおりにはいきませんでしたが、今となっては思い出の一つになりました。
今回の目的地
今回訪れたのは、羽越本線の複線化計画によって建設された未成線跡。
かつて国鉄は、輸送力を増やすために羽越本線全体を複線化する構想を持っていて、現在線の隣にもう1本トンネルを掘る形で工事を進めていました。
ところが国鉄末期の財政難で計画は凍結。トンネルの多くは完成していたにもかかわらず、一度もレールが敷かれることなく、そのまま取り残されてしまいました。
そのため羽越本線は今でも複線と単線が入り混じったままで、現在線のすぐ近くに巨大なトンネルが点在しています。乗っているだけでは気づきにくい「幻の計画」のスケールを、歩いて感じることができます。
今回巡ったのは、新潟県と山形県の県境に近い、勝木駅〜五十川駅にかけての日本海沿いの区間です。
最初のスポットは勝木駅
最初に訪れたのは勝木駅。実はこの駅、ホームにいながら未成線のトンネルをのぞくことができます。

左が現役の八幡山トンネル。そして右隣に並ぶのが、複線化用に掘られた新八幡山トンネルです。1983年3月に完成したものの、そのわずか5か月後に複線化が凍結され、一度も列車が通らないまま木の柵でふさがれています。

駅に降りるだけで「使われなかったもう1本」に会える、入門にぴったりの場所です。車の場合は、駅前の駐車場まで入れます。
勝木駅を出てすぐ——旧線跡と「複線のはずだった」トンネル
勝木駅を出てすぐの場所には、旧線跡と、ちょっと変わったトンネルがあります(場所はこのあたり)。国道の脇に旧道の名残で入り込める場所があったので、車を停めて下まで降りてみました。

旧線跡は砂利が敷き詰められてきれいに整えられていましたが、架線柱が一部そのまま残っています。1982年9月に現在の新線へ切り替えられるまで、ここを特急や貨物列車が走っていました。

そして現在線には、複線化を見越して複線断面で掘られたのに、複線化されないまま単線で使われているトンネルがあります。資料と突き合わせると大崎山トンネルのようです。大きな坑口に対して、中を通るレールは1本だけ。畑や草に阻まれて近くまでは行けませんでしたが、遠目にも「幅が余っている」のが分かります。
小岩川〜あつみ温泉——幻の高架用地と2本の未成トンネル
続いては県境を越えて山形県側、小岩川駅とあつみ温泉駅の間へ。この駅間には、未使用のまま眠る複線断面トンネルが2本あります。小岩川側が住吉山トンネル(1,395m)、あつみ温泉側が宮名トンネル(1,805m)。どちらも1kmを超える本格的なトンネルです。

酒田向きには、道路のすぐわきに宮名トンネルの坑口が口を開けています。草木に覆われながらも、力強く残るコンクリート。

反対の新潟向きには、高架橋や築堤が造られるはずだった用地が、まっすぐ山に向かって延びています。いまは草に覆われていますが、この先には住吉山トンネルの坑口が隠れているようです。
あつみ温泉手前——現行と未成が並ぶポイント
次はあつみ温泉の手前。ここは現行のトンネルと未成線のトンネルを並んで見られるポイントです。

町のすぐ裏手に、宮名トンネルのあつみ温泉側坑口がどんと構えています。

すぐ隣では、青い鉄橋を渡った先の現行トンネルに列車が出入りしています。「使われた1本」と「使われなかった1本」が同じ山肌に並ぶ、この区間ならではの光景です。
五十川駅付近——線路と道が同居する新五十川トンネル
次は五十川駅の近くにある、ちょっと珍しいトンネルへ。なんとここ、現役の線路と歩行者用の通路が、同じトンネルを共有しています。

金網1枚の向こうは羽越本線の線路。トンネルの構造を間近でじっくり観察できる、貴重な場所です。


この道の先にあるのは、山あいのお寺「遭龍寺」さんだけ。調べてみるとここは「新五十川トンネル」(全長約55m)といい、1977年10月の複線化で線路が山側に移った際、お寺への道が分断されるため、はじめから線路と道路の共用として造られたようです。
詳しいお話を伺おうと思ったら、あいにくご不在でした。ここは車では入れません。歩いてどうぞ。金網越しに列車が通ったら、かなりの迫力だと思います。
最後にもう一度、小岩川駅の近くへ
時間の関係で順番は前後しましたが、最後に立ち寄ったのは小岩川駅の近く。駅から酒田向きに集落を抜けて歩いていくと、畑の向こう、山の斜面にぽっかりと坑口が見えてきます。

これが先ほど用地の先に隠れていた住吉山トンネルの反対側、小岩川側の坑口です。中は路盤の舗装まで済んでいて、あとはレールを敷くだけの状態だったそうです。着工は1978年。ところが完成した1984年3月には、複線化はすでに凍結(1983年8月)されていました。完成したときには、使われないことが決まっていた——なんとも切ないトンネルです。
のどかな集落の風景に巨大な土木構造物が同居する、ちょっと不思議な光景でした。集落の道はかなり狭いので、車で行く場合はご注意ください。
帰り道①——旧線のロックシェッドをくぐる国道
帰りは国道345号を南下します。この道でもうひとつ面白いのが、廃線になった旧線の構造物が、そのまま道路に転用されている場所があることです。
越後寒川〜勝木の旧線は、1968年の複線化で内陸のトンネルに切り替えられ、海沿いの旧線は構造物ごと国道になりました。旧線のロックシェッド(落石よけの洞門)は「芦谷セット」と呼ばれ、いまは南行き車線だけがその中を通ります。車で走るだけで鉄道遺産をくぐり抜けられる、歩かなくても楽しめる見どころです。
一緒に巡ったB作さんが投稿したこの日の車載動画は、26万回以上表示されるほど話題になりました。実際に走ると、この気持ちよさがよく分かります。
帰り道②——ブロック積みの坑門と、塩害と戦う実験所

勝木駅近くの海沿いでは、コンクリートブロックを積み上げた重厚な坑門も見られます。こちらは未成線ではなく、現役の線路。のっぺりとしたコンクリート打ちの昭和のトンネルとは、また違う時代の空気をまとっていました。
そしてそのそば、道路を挟んで日本海に面した場所には、鉄道総合技術研究所の「勝木塩害実験所」があります。潮風をわざと浴びせながら、がいしや電線が塩にどれだけ耐えられるかを試験する施設。海沿いの鉄道を裏から支える、縁の下の力持ちです。
帰り道③——未成線じゃなかった「2つ穴」

最後はこちら。並んだ2つの穴——いかにも複線用の未成線に見えますが、これは水路を確保するためのもので、複線用ではないそうです。

実際、すぐ隣では沢の水が構造物の上を勢いよく流れ落ちていて、いまも現役の水路であることがよく分かりました。
「それっぽく見えるものが、全部未成線とは限らない」。これもまた、この区間の面白さです。
たっぷり歩いたあとは、道の駅あつみ「しゃりん」で海鮮丼のランチ。……写真は撮り忘れました。それくらい夢中で食べていた、ということで。
見学時の注意点
現地は生活道路や鉄道施設のすぐ近くです。見学の際は、次の点をお願いします。
- 線路内には絶対に立ち入らない
- 個人や企業が所有する敷地内には入らない
- 周辺にお住まいの方の迷惑や、車の通行の妨げにならないようにする
- 路上駐車をしない
- 夏場は虫や暑さ対策をしっかり行う
訪問は自己責任で、マナーを守って見学しましょう。
まとめ
完成目前まで造られながら、一度も列車が走ることのなかった羽越本線の未成線。
写真では伝わらないほどスケールが大きく、現地を歩くことで当時の計画の壮大さを実感できました。
ちなみに、これらのトンネルは完全に忘れられたわけではありません。2007年の羽越本線高速化の検討では、未使用トンネルの活用が中期的な課題として挙げられています。いつか列車が走る日は来るのか——それも含めて、見守りたくなる場所でした。
今回のルートは、日本百景「笹川流れ」の絶景ドライブコースとそのまま重なっています。青い海と奇岩を眺めながら走り、ところどころで「使われなかったトンネル」を探す——そんな夏のドライブ、おすすめです。たっぷり歩いたあとは、あつみ温泉や瀬波温泉で一泊するのも良いと思います。
新潟にはまだまだ知られていない鉄道遺産が数多く残っています。
鉄道好きの方はもちろん、土木遺産や廃線跡に興味のある方にもおすすめしたいスポットです。
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